きみは赤ちゃん / 川上未映子

だいたいさ、夫が家事とか育児をする場合、「やってくれてる」って言いかたがあるけれど、あれっていったい、なんなんだろう。
百歩ゆずって、家事は夫が外で稼いでくる賃金と相殺してもいい。けれど育児は対等に行うべきでしょう。「育児をやってくれている」「手伝ってくれている」。そういう言葉を、女性だちがなぜ思わず使ってしまうような、そんな環境になっているんだろう。
いや、そんなこと疑問に思ってみるまでもなく、こんなのたんなる社会の習慣なのだ。戦後にできあがったなんとなーくの常識が、連鎖しているだけなのだ。
もちろん、その常識から派生したあれこれは、女性自身の意識にもけっこう強く根づいていて、「そこは、はっきり、敏感に仕分けしていくで」とかつての蓮舫議員ばりに意識していたわたしでさえ、「母親的役割」をしらずしらずのうちになぞっていて、そういった「思いこみ全般」に突きうごかされていることに気がついて、呆然としたことがあるのだもの。

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